1.どのような病気ですか?
IgG4関連眼疾患とは、IgG4関連疾患の病変が眼球を含めた眼窩(頭蓋骨の目のくぼみの部分)に生じる病態を指します。そのうち最も頻度が高く代表的な病変は涙腺の腫大です。涙腺は上眼瞼(上まぶた)の耳側の皮膚の下に位置し、眼表面に涙液を分泌する組織です。涙腺の腫大はしばしば両側性であり、両側のまぶたの腫れが典型的なIgG4関連疾患の症状の1つです。これに両側性の唾液腺(唾液を分泌する腺)の腫脹が合わさった病態は、今から100年以上も前からミクリッツ病として知られていましたが、これはIgG4関連疾患の病態の1つであることが今世紀に判明しました(詳しくは涙腺・唾液腺分科会の項をご参照ください)。この涙腺が障害されることに伴うドライアイは頻度の高い眼症状です。ただし、シェーグレン症候群に見るような重度なドライアイをきたすことは稀です。次いでIgG4関連眼疾患のうち頻度が高い病変として、三叉神経の腫大が挙げられます。三叉神経とは顔面の知覚をつかさどる神経ですが、本疾患でその神経腫大がMRIなどの画像で確認されても、神経麻痺による知覚の低下をきたすことはまずありません。また、頻度の高い病態には外眼筋(眼球に付着し、それを動かす働きがある)の腫大が挙げられます。その程度によっては眼球の運動障害に伴う複視(物体がだぶって2つにみえる)が生じ得ますが、これもそれほど頻度の高い症状ではありません。これら涙腺、三叉神経、外眼筋の腫大はIgG4関連眼疾患の3大病変です。この他に、頻度はやや低いものの最も重要な病態としては、視神経(眼球の網膜に集められた視覚刺激を脳に送る神経)の周囲に腫瘤を形成するのもので、その程度によっては視神経症による視力低下や視野障害が生じます。
IgG4関連眼疾患の50歳代女性。両側の眼瞼膨張、眼球突出を呈し、MRIでは両側の涙腺腫大(矢印)と三叉神経腫大(矢頭)がみられる。
2.この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?
本邦でのIgG4関連疾患の患者数について、ある報告では年間およそ8,000人の新規患者がいると推察されていますが、医療機関における本疾患の認知度の向上に伴ってさらにこの数字は増加していると考えられます。そのIgG4関連疾患のうち眼疾患の頻度が、5~17%などと報告されている現状からは、IgG4関連眼疾患の年間の新規患者数は、おそらく1,000人は超える程度であると考えられます。
3.診断・治療法にはどのようなものがあるのですか?
IgG4関連眼疾患の診断が確定するためには、①眼窩病変の画像所見、②病理学的所見、③高IgG4血症(血液検査でIgG4の濃度が高いこと)の3つが揃うことが条件であることが、2015年に制定されたIgG4関連眼疾患の診断基準に示されました。このうち、①眼窩病変の画像所見については、先述のように涙腺腫大,三叉神経腫大, 外眼筋腫大を3つの主な病変として掲げ、また他の眼組織にも腫瘤, 腫大, 肥厚性病変がみられることを挙げています。②病理学的所見については、眼疾患では主として涙腺の一部切除による病理検査(涙腺生検)が実施されることが多く、IgG4染色が陽性となる形質細胞が多数(強拡大視野内に50個以上)浸潤している像がみられます。このIgG4関連眼疾患の診断基準は2023年に改訂され、そこではIgG4関連疾患による視神経症の発症に留意すべきとの注記が追加されました。
IgG4関連眼疾患の治療の基本は、他の臓器疾患の場合と同様に副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)の全身投与です。かなり重度なIgG4関連視神経症においても、このステロイド剤内服(あるいは点滴)により、ある程度の改善が見込まれます。ただし、このステロイド剤の全身投与には副作用があるので、眼症状が軽度の場合にはそれ以外の治療法として、ステロイド剤の眼部局所投与や涙腺病変自体の切除なども選択肢の一つとなります。
眼・内分泌・神経分科会 高比良 雅之(分科会長)